本当の話

ドアが閉まり、電車が動き出した。
景色が右から左へ流れていく。
振り向くと、左から右へ流れていた。


この電車は、本当に動いているんだろうか。


足から伝わる振動なんて、再現しようと思えばできるじゃないか。
窓の外を流れていく景色だって、
本当はモニターに映っているだけかも知れない。
本物そっくりの魚が泳いでいる、水槽型のモニターを、
以前何処かで見た気がする。
あれと同じようなものだ、きっと。


ひょっとして、僕たちは普段からそうなんだろうか?
歩いているつもりで、歩いていない。
動いてるのは自分じゃなくて、道のほう?


だったら、すれ違ったあの人は何だと言うのだろう。
本物そっくりの、あの人。


嗚呼、でも、そうだ。
人間だけがこんなに違っているなんて、おかしな話。
他の動物は、もっとお互いに似ている。


あれ、動物って、何だ?
流れていく景色。動物も景色の一部?


何が何だかわからなくなってきた。
全部ニセモノってことになるんだろうか。
僕が見送った景色も、歩いた道も、出逢った人も。
僕自身も。


でも、在り得ない話じゃないな。
僕らは「そんなわけない」と簡単に笑うけど、
本当のことなんて、全然知らされてはいないんだ。
知ったような気になって、安心して生きている。
そういう風に作られているんだろうか。


まあ、考えたって分かるはずないよ。
僕のこの頭で、答えに辿り着けるとは思えない。
この頭だって作られたものかも知れないんだから。