だって眠たかったし

 さて、と僕は思う。いつも僕が何かを思うところから始まってしまう気がして、それってちょっと嫌だな、とも思う。結局なにごとかを思わずにいられない。「求職・進路届」とやらの提出が明日までで、ついさっきまでそいつとにらめっこしていた。だってこれ、提出しないと就職活動のためのなんやかんや――大学側からの支援?――が受けられないとかで、絶対に提出するようにと言われていたものだ。そして僕は明日、これを提出するために、大学へ行くのだ。たぶん、3週間ぶりくらい。腐ってる。いや、まだ腐っていく途中だからたぶん講義には出られやしないだろうけれど、とりあえずこいつは提出に行かなければならない。ちょっと今何を言っていたのか自分でもよくわからない。
 ところでこの「求職・進路届」なるものを書くのに僕はひどく手こずった。まず学歴欄で引っかかる。高校の転入をどう書けばいいのかわからないし、高校の卒業資格を手に入れてからの、予備校生でも自宅浪人でもなかった1年間をどう書けばいいのかもわからない。僕は久しぶりに自分の経歴が「大多数」から外れていることを思い出した。そして、最近はほとんど忘れて生活していたのだと認識した。そういう認識はあまり愉快なものではなかった。仕方がないからその1年間は空白のまま放置してある。どうせそんなところいちいちチェックされやしまい。問題は裏側の、自己アピール欄だ。「あなたの強みを書いてください」だとか「大学で最も成長したと思えるのはどこですか」とか、いかにもそれらしい項目ばかりが並んでいる。僕はどうすりゃいいのかわからなくなって、とりあえず、期待されていないであろう回答を生真面目に書き始めた。誠実であろうとすればするほど、「求職」からは遠のいていく。つまりそういうことか、と僕は呟いて。それでもそのまま書いた。書いたものの、読んだほうは何のことやらさっぱりわからないかも知れない、とも思った。それでも、そのまま書いた。結局どうしても埋められない欄ができてしまって(大学で達成した目標、だかなんだか。例として資格だの語学だの成績だのが挙げられていた)、それも空白のまま放置してやった。明日、窓口で何か言われるかも知れない。何か言われたらその時に何とかしよう。いいんだ、今日はもういいんだ。