救えないヒーロー

 いつか、僕は世界を手に入れようとしていた。何でも思い通りにできる、絶対的な存在。その頃は、神様なんて言葉知らなかったから、目指していたのは王様だった。天下統一。世界征服。子供じみた、凶悪な夢。
 昔から、ヒーローも好きだった。何だって上手くできるスーパーマンじゃなくて。頑張ってるのに上手くいかない。上手くいかなくても諦めない。ギリギリの状態で世界の均衡を保っているのに、それは誰の眼にも映らない。そんな、弱くて強いヒーローに憧れる。今も。
 いつからか、僕は、世界征服を諦めた。こんなこと言うと笑われそうだけれど、その代わり、ヒーローを目指すようになる。
 人並み以上の力を持たない僕には、誰かを救うことなんてできやしなかった。ただ、周囲の人間の苦しみや哀しみをできる限り呑み込んで、腹の中に溜めただけ。それはきっと、今も変わらない。何も、誰も、救えはしない。けれどそうせずにはいられない。ひょっとしたら、もしかしたらと、愚かにも思ってしまうのだ。僕が苦しみを呑み込めば、誰かの苦しみが減るんじゃないか。僕が哀しみを呑み込めば、哀しみの連鎖も止まるはず。そんな幻想にしがみついて、自らの存在意義を守ろうとする。
 メサイアコンプレクス。僕は、世界を救いたい。
 人間には無理だと言うのなら、人間を捨ててもいい。人間を超えなきゃいけないのなら、そのための努力はしよう。失敗して死んでも構わない。破滅的だと人は言う、かも知れない。それでも僕は笑っていたい。仕方が無いのだ。そんな望みしか持てないのだから。


 どうか、明日も笑っていられますように。明後日も、明々後日も、その先もずっと。死ぬまでずっと。全てを笑い飛ばせますように。そして、そんな僕の愚かさを、誰かが笑ってくれますように。
 “それだけが、生きがいなんだ――。”