グッバイ世界

 正直に言うと、壊れそうだ。今すぐにじゃない。西の彼方に暗雲を見るように、崩壊を予感する。けれど、私は壊れるワケにはいかない。何があっても。そう、何があってもだ。いっそ狂ってしまいたい。
 あのヒトの言動が、私の精神を削り取っているのは事実だ。そのことにあのヒトは気付いていない。そうでなくては困るのだ。私が気付かせてはいない。決して気付かれてはいけない。今まで散々嘘を重ねて、必死で守って来た誓約だ。私が勝手に始めたことで、手前の都合でしかないのだから。それを投げ出しそうになるのは、ただ私の弱さゆえ。あのヒトを巻き込むのはフェアじゃない。
 でも、と私は言ってしまう。もしあのヒトが投げ出して、私を置いて行ったなら。やっぱり私は壊れるだろう。決壊。崩壊。グッバイ、世界。その時は笑ってくれ。くだらない生き方で自分の首を締めた挙句、何も守れずに壊れた道化。最高の喜劇じゃないか。「他人の不幸は蜜の味」って、何かどっかで聞いた言葉。


 僕はもう限界だから、近いうちに旅に出るよ。後は任せた。