ならぬ言葉

 言葉。色んな言葉がある。様々な姿で僕の前に現れては消えていく。それぞれが、何か特別な答えを秘めていそうで、僕は必死になって捕まえようと試みる。けれど、どうにもうまくいかないのだ。ぐっと握った右手に確かな手ごたえを感じながら、ゆっくり開いてみると、もうそこには何もない。空っぽの手のひらが僕を見て沈黙しているだけだ。
 途方にくれて、ため息をつく。言葉の欠片がこぼれていく。慌てて口をつぐむけど、こぼれた言葉は戻ってこない。僕の中から、少しずつ言葉が消えていく。言ってやりたいことがあったはずだが、さてはて、いったい何だっただろう。
 体は軽くなっていく。影は薄くなっていく。今にも宙に浮きそうだ。そんな僕が見上げた空は、暗雲と稲光。心は深く沈んでく。しらしらと。そう、しらしらと。言葉もカタチを失って、紡いだ糸は切れていく。どこへ行くのだ、僕は。君は。何を追っていたのだっけ。
 ぼんやりと映した川を、何かがざばざば流れていった。言葉の匂いがしたけれど、僕は動く気になれなかった。
 すべてが駄目になってくみたいな。すべてに置いて行かれるような。どうしようもない気持ちに包まれて、僕の言葉はつぶれていった。さいごのさいご、僕の言葉は「哀しい」と言ったらしい。そうして僕はうめき声をあげた。たぶん、腹を立てていたのだ。