嘘の告発 ―告発が嘘なのか、嘘を告発したのか―

 うまく行かないものだな。と、私は思った。けれど、それが何のことなのかはさっぱり分からない。電気をつけないまま一晩過ごして、気がついたらカーテンを開けてもいいような時間になっている。私がどんなに止まっていても、時間は止まってはくれないのだ。嫌われているのかも知れない。嫌われても仕方が無い。そう思って生きることにしている。だから、哀しいとは思いたくない。自分のことを哀しむのには、もう飽きてしまったから。
 誰かが泣いている気がする。いや、嘘だ。泣いていたらいいのにと思った。誰かが泣けば、私は泣かなくても済む。どうしてそんな風に考えるようになったのだったか。思い出す気もないくせに。そう、結局は、押し付けなのかも知れない。私の仕事を放棄して、別のシゴトを探すためだ。
 夢をみた。くるま。カーブ。自転車? 分からない。思い出せなかった。忘れたくないものも、いつの間にか忘れてしまって、忘れたことすら忘れてしまう。どこかで聞いたような言葉ばかりが、開いた口からこぼれて来る。私は吐き出してなどいないのだ。口を開くと、勝手に、零れ落ちてしまうだけなのだ。何を言ってるのか分かっていない。こぼれた言葉をぼんやりと眺めて、考えて、もう一度食べてみて、ようやくそれが何だったのか、うっすら分かる。そんな具合だ。
 私は何をしているのだろう。何を、して、いるの、だろう。だらう。分からないな。何を知りたい?
 分かっている。全部、本当は、分かっている。でも、分からないフリをしている。だから誰も、何も、教えてはくれないのだ。みんなが分からないフリを続けるから。ときどき、お節介で親切なヒトが丁寧に教えてくれる。けれど、残念なことに、私は理解できない。私はおかしいのだ。そう言う人は結局普通の人だから、私が一番普通の人だ。つまり、みんながおかしい。なんて言うと、周りが敵だらけになるだろう。だから言わない。せいぜい、冗談にしか聞こえないように「わたし、ちょっとへんなコなんです」と言う程度。平和主義者は敵を作りたくないらしい。
 あれ、何だ? 本当に何を言ってるのか分からない。意味が追いついてない気がする。そうでもないかな。後で教えてもらおう。誰に? 何を? さあ? 何か、楽しくなってきた。
 そろそろ「今日」が始まる時間か。買物に行くつもりだったけど、行けないかも知れないな。とりあえず、いきなり寝よう。「今日」が始まった途端に寝てしまう、って言うのも、久しぶりで面白い。今度夢をみたら、ちゃんと覚えておくことにしよう。