ピーナツバタは融ける

 最近何だか、うまく噛み合わない。色々なものがズレている。ような気がする。僕の思考と、感覚も、きっとズレてしまっている。たぶん、糸が切れているのだ。繋ぎ直さなくては。でも、何処に? 世界と、意味と、時間と。
 会話ができなくなる。僕の言葉が、相手に届かない。そんなのは昔からよくあることで、誰にでもあることなのだ。気にするほどのことじゃない。と、思いたい。けれどやっぱり、僕は会話ができなくなる。何が伝わっていないのだろう。言葉。意味。意図。糸。切れているんだ。接続が。送信エラー。ふぅむ。僕は何を言っている? ひょっとして、何も話せていないのか。だから伝わらないのかも知れない。わざとやってるのか? さあ、どうだろう。
 ふふ。笑ってしまう。何が可笑しいのか分からない。なんとなく、自分がとても滑稽なことをしているような。そんな気持ちになったりする。そして笑う。笑い声を聴いていると、今度は哀しくなってくる。心臓が内側に引っ張られるみたいな感じ。僕はブラックホールになった。いや、違う。哀しいから笑っていたのだ。視界がぼやけて、頬をつたう涙。馬鹿馬鹿しい。また笑う。声を上げて、笑う。ヒヒ、ヒヒヒ、ははははは。はあ。ため息。今誰か、何か言った?
 大丈夫。大丈夫なのだ。ほんとうは。だって、僕は今日、弟と話した。歌の歌詞について。母親とも話した。身長について。父親とも。キャベツについて。昨日は仕事先で色々な話をしたはずだし、明日も何処かで何か話すだろう。会話ができないなんて、嘘だ。僕はまた嘘を、吐いた。ピーナツバタがあまい。食べたいから食べているのか。食べたくないから食べているのか。ぬたぬた。ぬたり。