いときりばさみ

 ひとつ。また消えていく。嘘みたいに、でも当たり前のように、静かに突然いなくなる。それはとても哀しいコトであるはずなのに、泣くタイミングすら逃してしまう。だって気付いた時にはもういない。今更泣いても手遅れで、どうすりゃいいのか分からない。後悔しても反省しても、何しろ相手はもういない。地団駄踏んで喚いても、聴く人なんてどこにもいない。そう、いないのだ。
 きっと傷つけたのだろう。何かを奪ったりもしただろう。それに気付かない私もいただろう。直接ではなくたって。悔やむべきコトが、あったりするのかも知れない。結局何かが足りなくて、私では駄目だった。そういうコトなのかも知れない。だから私は、土下座でも、したほうが良かったりなんかするのかも。誰にってもちろんみんなにだ。
 切れた糸を手繰り寄せて、その先に、何を結び付ければいい? 空き缶でも結んでおけばいい。歩くたびにカラカラと、バカみたいな音がして。あまりにも滑稽で。思わず笑ってしまいそう。笑ってばっかり。泣いたばっかり。カラスも鳴くさ。アホウって。どうせアホウです分かってます。
 消えていった誰かさんは、いったいどこへ行ったのだろう。ここじゃないどこかへ行って、楽しく過ごしているんだろうか。笑って生きているだろうか。心地好い風が吹きますように。哀しい時は泣けますように。祈りが届きますようにって、空き缶蹴った帰り道。耳に残るひぐらしの声。言ってやりたいコトだって、本当はたくさんあったんだ。でも今更言うのは卑怯だし。そもそも聴く人なんてどこにもいない。そう、いないのだ。だってアンタはもういない。