ネヴァエンディング

 ここは終わってしまった世界。色々なものが崩れてしまって、瓦礫が散乱している。彼はそこにひとりで存在していた。彼はひとりだったから、もう誰も彼を「彼」と呼ばなかった。きっと彼も終わってしまっているのだろう。もう生きてはいないのだろう。そんな、終わってしまった世界。
 そこには、割れたガラスの破片や、破り捨てられたノートの切れ端や、錆付いたフォークや、千切れた人差し指なんかが転がっている。どれもこれも“在ったもの”ばかりだ。彼はそこをふらふらと歩いて、時々ひとりごとを言った。音楽が聴きたいとか、歌が歌いたいとか。でも、聞こえてくるのは全然別のものだ。怒鳴り声。ため息。扉の開く音と閉まる音。ガタンバタンガラガラガラ。彼が千切れた人差し指を咥えると、どこからか舌打ちが聞こえて来た。
 眼球がヒリヒリするな、と彼は思って、足元のフォークを拾う。そして眼球を、抉る。どうせ、終わっているのだから。何も見えなくなったけど、紙の破られる音が聞こえるようになった。色んな音がするものだ。けれど、すべては錯覚で、何も終わってなどいないのだ。彼の眼は見えている。瓦礫の山が? 青い空が? だって、聞こえているだろう? 誰かの声が。誰かの。生きている声。
 彼はまた歩き出した。瓦礫に躓いて転んだ拍子、ガラスの破片に手をついた。破片は彼の手に突き刺さる。それでも、彼は。歌を。


「あーまた変な夢見た。とかって書くと『夢オチかよ!』みたいになるんだろうなー」