ケース3:

「そんなに気ぃ使わなくていいよ」と彼は言った。仲良くなりたいから、気を使われるのは嫌だ、と。「これがふつうなんです」と僕は答えた。いつもそうしているように。彼は「じゃあ敬語でしゃべるのやめてよ」と言った。僕は「敬語のほうが楽なんです」と答えたけれど、彼は納得しなかった。
「だって絶対気ぃ使ってるでしょそれ。年上とか関係ないから、敬語じゃなくていいよ」
 僕は、うーん、と困ったフリをして、いつもどおり「えーと、じゃあ、頑張ります」と言った。彼は、他の誰かもそうしたように、「いやそれ既に敬語だから頑張れてないし」と笑った。僕も笑った。笑いながら、僕に「気を使わなくていいよ」と言わなかった人のことを思い出した。僕はその人に対しては気兼ねなく気を使えるのだ。それはとても素晴らしいことだと思う。