マルとペケ

 僕はいつまでここにいるんだろう? どうして歩くのをやめたんだっけ。真っ直ぐ。僕の前に続く道は真っ直ぐ。どこまでも伸びているように見える。見えるだけで、ひょっとしたら、すぐに崖っぷちへたどり着いたりするのかも知れないけれど、でも、見ているだけの僕にはそんなこと関係ない。真っ直ぐ。僕はただ、座り込んで、何もしない。何もしないでいることは難しいことかも知れない。僕は何もしないつもりで、たとえば道端のゴミを拾ったりしているのかも知れない。気がつくと草をむしっていたりするのかも知れない。けれど、とにかく、僕はここにいる。歩きなさい、と言われたこともある。何かがものすごい勢いで通り過ぎて行ったこともある。むかし僕がまだ歩いていたころ一緒に歩いていた人は、僕が立ち止まったのにも気づかずに、そのまま歩いて行ってしまった。僕はそれでいいのだと思った。それで良かったんだ。どこへ行ったんだろう、あの人。あの人たちは。
「私が死んで、悲しんでくれる人がいるかしら」と、スクリーンに映る彼女は言った。僕は哀しむだろうと思った。でもそれは、僕自身に対する裏切りだ。「僕が死んで、哀しむ人がいたらどうしよう」と、僕は考える。誰にも哀しまれずに死ねたらどんなに素晴らしいだろう。僕は、誰かが死んで、哀しまずにいることができるだろうか。難しいな。ほんとうに難しい。死ぬってのは、生きるってのと同じくらい、難しいことだ。僕が死んだら、その途端、この世界から僕が消えてしまったらいいと思う。なんて望んだりするのは、やっぱり許されないことだろうか。誰に? って今更訊くことじゃないよね。神様になり損ねた僕だよ。
 なんだかもうすぐ満月のような気がするのだけれど、どうだっけ。くしゃみ2回。花粉症かなぁなんて思ってる僕はきっと、落ち葉が山になっても座り込んでそれを眺めているんだろう。