逃げるってことだ

 母親のヒステリックな叱責を浴びながら、何がいけなかったのかもわからないまま、私は馬鹿みたいに謝っている。すみませんごめんなさい私が悪かったです余計なことばっかりして。良かれと思ってやったことが全部母親を逆上させた。「もういやだ」と泣き出した私のそばで、父親は「パパだって嫌やわ」と怒鳴った。部屋には私ひとり残された。

 裏の家に住むおじいさんのぶっ倒れそうな咳を聞きながら、トーストにジャムをたっぷり塗り過ぎた僕は、今日も死を想っている。なんて馬鹿げているんだろう。もうやめたい、もういやだ、って呟きながら、栄養バランスを考えて食事をしている。ヨーグルトにフルーツグラノーラを混ぜて、お昼には小松菜と豆腐を食べよう、なんて考えている。何のために? きもちわるい。僕はどうしてまだ生きているんだ? もうこれ以上何もブチ壊したくなんかないのに、また何かが壊れていく。誰も僕のせいだなんて言わない。僕は何も悪いことはしていない。それでも、僕は「僕のせいだ」と思わずにいられない。たとえばそれは、疫病神や悪魔憑きみたいなもので、存在そのものが何かを壊していくんだ。もしも願いがかなうなら、僕という存在の存在がまるごと消えてなくなりますように。