観賞と感傷

「淋しいね。」と、その人は言った。右手を額に当てて、仰向けに横たわっている。左手は私の頭を撫でていた。
「人間は、きれいだよね。」
 どうだろう。私には分からない。
「みんな、それぞれに一生懸命なんだ。だから、褒めるのも忘れてしまうんだろうね。そんなに一生懸命な人間って、とてもきれいだよね。」
 同意を求めているわけではなさそうだ。そもそも、私は言葉を持たない。黙って聞いているしかない。
「きれいだけど、淋しいね……。だから、僕は、好きなんだ。人間がね。淋しいものが好きなんだよ。」
 私の頭を撫でる手が止まった。泣いているのだろうか。部屋は暗くて、表情までは見えない。でも、泣いているんじゃないだろうか、この人は。
「君は、淋しくない? ひとりぼっちじゃない? ああ、引き離してしまったのは、僕だ。ごめんね、淋しい?」
 分からない。私は淋しいのかも知れない。けれど、ここは暖かい。頭を撫でてくれる人もいる。
「僕、今は淋しくないな。どうしてだろう。不思議な気持ちだ。君が人間じゃないからかな。僕も人間じゃない。人間であるためのモノが欠けているから……。」
 確かに、この人は欠けている。足りないモノがある。それを埋めるための何かを、必死で探している。人間が好きで、人間になりたいからだ。ずっと人間のフリをしている。でも、人間にはなれない。そういうのを、淋しいと言うんじゃないだろうか。
「君がいてくれてよかった。なんて、身勝手だよね。淋しさを植え付けたのは僕なのに。」
 言葉を持たない私は、その人の左手に額を擦りつけた。その人は、まだ泣いているらしかった。