ライ麦畑でさがしもの

 ちょっと、君、想像してみてくれよ。例えばさ、君がどこか、新しいお店へ行こうとしているんだ。それでね、その店っていうのは、今歩いてる通りをずっと真っ直ぐ行けばすぐ分かるようなところにあるはずなんだよ。確かにあるはずなんだ。だって君は、出掛ける前に何十回も店の場所を確認したんだからね。地図やなんかでさ。だから君は、ずんずん通りを歩いていくんだ。真っ直ぐね。一応周りを見渡したりしながらだよ。
 ところが、きっとここにあるはずだってとこに、無いんだな、店が。場所は間違っちゃいないんだよ。何十回も確認したんだから、そりゃ間違いない。それなのにやっぱり店は無いんだ。そんな時、君、どんな気持ちになる?
 つまり何が言いたいかっていうと、僕は今まさにそんな気持ちだっていうことなんだ。実際何が起きたかって言うとさ、ちょっと違ったことが起きているんだけど、でもまあ、気持ちは同じだと思うな。きっと。
 そりゃあね、歩いている間に周りを見渡したりなんかしてるのも、楽しくないわけじゃないよ。ちょっと面白そうなお店を見つけたりしてさ。悪くないと思う。だから、その散歩が全くの無駄だったなんて、これっぽっちも思っちゃいないんだ、僕は。ただ、最終的に辿り着くはずだったところへ上手く辿り着けなかったっていう、そこなんだよ。そんなことになったら、君だって、少なからずやりきれない気持ちになると思うなあ。
 そんで、僕はどうするかって言うとさ、そう簡単には諦められないから、しばらくそのあたりをウロウロするよ。これは間違いないね、絶対にウロウロするよ。たぶん、20分くらいは。ひょっとしたら1時間でもするかも知れない。僕って時々、変に執念深くなるからね。でも、店は見つからないんだな。例えばの話だけどさ。それでもやっぱり、嫌になっちゃうよな、こういうのって。仕方ないからその日は別の店へ入ったりして、また今度来よう、って思うわけだ。もう一度よく場所を確かめてから、ってね。そうする他ないよ。
 そうして、家に帰ってから店の場所を確認すると、やっぱり間違っちゃいなかったんだよ。ただちょっと、奥のほうへ入らなきゃならなかったとか、その程度さ。だからまた暇を見つけてそこへ行ってみるんだな。今度はすぐに店が見つかるんだ。どうしてこないだ見つけられなかったのかってくらい、簡単に見つかるんだよ。そういうもんなんだ、探し物ってのはね。
 だから、僕の探し物も、そんな具合に見つかってくれたらいいなって、今、そう思ってるんだ。それをね、ちょっと、話しておきたかっただけさ。