支離滅裂な嘘つき男

 「頭いいね」なんて言われても嬉しくないって、誰かが言った。「私はあなたほど頭がよくないから、そんな風にはできません」と言われているような気がする、って。その気持ちに近いものが、分かったような……。
 「アンタは偉いね」なんて、言われたかったワケじゃない。そんな言葉だけ置いて、どこかへ行ってしまうんなら、罵られても構わないから、一緒に歩いてくれたほうがいい。私はそんなに偉くない。だからヒトは行ってしまう。引き止めるほどの力もない。誰かが着いてくるワケでもない。「アンタは偉いね」という言葉を聞いたときの、突き放された感じ。置き去りにされているのは、私だ。バカみたいに「置いてかないで」って泣き出しそう。


 とかねー、言っちゃってねー、ホントバカみたいだよねー。ていうか、バカァ?


 「偉いね」と言われるのなら、もっとイイ子になってやる。笑顔で送り出してやる。私は大丈夫ですちゃんとやっていけますだから心配しないでいってらっしゃい。フリでもいいさ。バレなければ。実際全然大丈夫じゃなくたって、意地でも隠し通してやるよ。でも、なんだろう、この、ちぐはぐな感じ。いや、いいんだ。大丈夫。敵を騙すにはまず味方から。ヒトを騙すにはまず自分から。


 そう、そう。騙そうとしているんだ。私はいつも、色んなものを。世界の全てを。けれど騙しきれずに本音を吐き出してしまっている。それが私の弱さだろう。
 弱い自分は嫌いだから、少しずつ切り捨てていく。少しずつ自分が減っていく。何処へ消えてくんだろう。その分笑えるならどうだっていい。私は私になりたいのじゃない。私は道化になりたいのだから。やっぱり何だか、ちぐはぐな感じ。でもいいよね。哀しいくらい、滑稽な生き物。