つい今し方

 お気に入りの場所で文字を食べていたら、誰かが走って来る音が聞こえた。顔をあげて見ると、それは全然知らない人で、走って来たのは雨が降り出したからだった。私は屋根の下にいたのだ。その時の私は、「やったゼ」とか「ざまあみろ」とか言ってるような、勝ち誇った顔をしていただろう。食べていた文字を鞄にしまって、立ち上がる。行くなら今だ。
 荷物を全部置きっ放しにして、歩き出す。戻って来た時、これ全部無くなってたら笑おう。とか何とか考えながら。屋根から出ると、服がどんどん湿って行くのが分かる。雨は少し強くなったようだ。でも、私は、青空の下を散歩するみたいな気分。
 特に食べたいとも思わない食料を買って戻って来ても、荷物は無事だった。無事でないのは私のほうだ。お気に入りのハンチングも、ストライプのシャツも、グリーンのズボンも、びっしょりとは言わないけれどもうジメジメ。それを確認した私は「さむい。」と言った。たぶん、道端で100円拾ったみたいなトーンだったと思う。