まだ読まれない手紙

 最近、手紙を書いた。僕じゃない誰かへ宛てた手紙だ。僕はそれをノートに下書きして、大学の生協で買った便箋に清書した。下書きをしたのは大学のキャンパスの隅っこで。清書したのは、家の食卓でだ。
 今日は早く寝なくちゃと思いながら、僕は便箋を広げた。真っ白な便箋だった。下敷きを敷いて、文字を書いていくタイプの便箋だ。下敷きには平行線がたくさん並んでいる。真っ白な便箋と下敷きをきれいに重ねて、ペンを握った。向かって左側にあるノートを見ながら、言葉を書き写していく。ときどき、気に入らない表現なんかがあって、それを直したりもする。意外と長くなりそうだった。
 時計の長針が1周しても、手紙は書き終わらなかった。僕は、そろそろ寝なくちゃと思った。けれど、大切な手紙だったから、途中でやめるのは嫌だった。便箋は3枚目。もうすぐ4枚目だ。こんなに長い手紙を書いたのは、久しぶりだと思う。
 結局手紙は4枚ぴったりで終わった。時計の短針は3時よりも4時に近いトコロを指していた。いい加減、寝なくちゃ。と僕は思った。書き上げた手紙は、三つ折にして封筒に入れた。グリーンの封筒。きれいな色だ。ブルーやピンクや、オレンジの封筒もあったのだけれど、グリーンが一番合う気がした。僕にではなく、僕じゃない誰かにでもなく、その手紙に、グリーンが合うと思ったのだ。
 僕はその手紙をカバンに入れて、持ち歩いている。大切な手紙だからだ。