何の話だか

「お客様、心してお聞きください」
 と、ソイツは言った。前にどこかで見た顔だ。ゲームか何かで……マンガだったかも知れない。とにかくうさんくさい顔。まったく、ヘラヘラ笑いやがって。
「お客様の状態は、ソドシラソ(Syrup16g)とノクターン第20番(ショパン)を足して2で割ったようなものでございます。飲み物で言うと、生ぬるいコーヒー(ミルク無・低糖)といった具合。お分かりですか?」
 分かる。と言うべきなのか、分からないと言うべきなのか。それが分からない。そんな感じ。食べ物で言うなら、美味しいお茶漬けが無性に食べたい。
「よろしいですか。そのようなことを何時間考えていたところで、何も生まれはしないのですよ。非生産性極まれり、でございます。諦めて月でも眺めていらっしゃい」
 非生産性の権化を生産したのは誰なんだ。なんて言うのもナンセンス。どうせ全部揚げ足取りだ。月を眺めてみたとして、ウサギと話もできやしない。……どうして? ウサギって、喋らないんだったっけ。それとも、私が話せなくなったのか。
 鏡を見ると、眼が赤い。顔は白い。なんだお前、ウサギか? 訊いてみるけど返事はない。お前はいったい誰なんだ。
「自分が何者か分かっていたら、こんなところにおりません。そうでしょう、お客様、貴方だって」
 言われてみればその通り。ここは何だか、すこし寒いな。でもこのくらいが丁度いい。月だって見える。満月みたいだ。けれど確か満月は明日。じゃあこの月は何なんだ? コイツも同じというワケか。お茶漬けが食べたいな。