古い箪笥の話

 日常の会話からタグを拾い上げていくと必ず記憶にたどり着く。たどり着いた記憶には「嫌な」とタグが付いていて、僕はまたうんざりする。タグを付けているのが自分であることにうんざりする。結局のところ、外から入ってきた情報をすべて自分の内側に取り込んでいるだけなのだ。不必要にタグを増やして、怨みがましく古い記憶を引きずり出してくるのも、「僕」という小さな箪笥の中だけで行われていることだ。いつまでそんなことを続けるつもりなんだ、と誰かが言う。僕は「分かってる」と言う。そのやり取りすらも閉鎖的。実に不愉快な響きでもって箪笥を揺らす。箪笥。押し入れ。暗い狭い。僕は昔押し入れの中に――またか!

 そうじゃない。外からの情報は、僕の記憶を引き出すために与えられるものではない。新しいものは新しい箪笥に入れるべきだ。新しいワインを新しい革袋へ入れるように。もしくは、箪笥をひっくり返して空っぽにしてしまえばいい。そうして、ベランダで日干しにする。うん、そうだ、それでいい。よーし大丈夫。