無力であり続けること

 強くなりたかった僕がいる。強さと弱さ、大人と子供、メシアとサタン。僕が求めていたものを、僕は強さと呼んでいたけれど、それはもしかすると誰かが強さと呼んでいるものとはまったく違うものなのかも知れない。と、僕は思う。ただ他に言葉を知らなかっただけだ。強さと弱さでない何かがあることを、強くなりたかった僕は知らなかった。

 ある時僕は「偉い人にはなりたくない」と言った。祖父は今でもそれを覚えていて、お酒の席なんかで口にする。僕も僕の言葉を覚えている。「偉い人じゃなくて、立派な人になりたい」ずいぶん幼稚な言い草だ。でもたぶん、立派になりたかった僕は強くなりたかった僕と同じだろう。強者や勝者や権力者や支配者になりたくなかった僕と同じだろう。